施設管理の現場を経営者に生々しく伝えることができます
大和屋本店について教えてください
大和屋本店は慶応4年(明治元年)創業で、150年以上続く道後温泉本館北側に構える老舗旅館になります。
創業時は、和紙の原料である楮ミツマタの仲買を営んでおりました。江戸時代は、道後温泉周辺で商いをすることが許されていませんでしたが、明治になると解禁されるようになりました。楮ミツマタの販路を全国に拡大するため、取引先の宿泊場所を提供するべく、いち早く道後温泉本館北側に4部屋の木造旅館を構えました。
名前の由来は、創業者である奥村保二郎氏が大和の国(現在の奈良県)に縁があったからとも言われています。
その後、宿泊業が主となり、昭和元年には木造旅館の東側に、道後では初めてとなる鉄筋4階建ての洋館を建設。洋館を「大和屋本店」、木造旅館を「大和屋支店」としました。昭和19年に、海軍療養所として一時接収されたものの、昭和21年には営業を再開しました。日本最古の湯として知られる道後は、文化の里。俳句発祥の地として、あるいは近代文学の舞台として、かつて華開いた才気の気配を至るところで感じることができます。
昭和30年代に入り、団体旅行が中心になると、これに対応すべく増築を重ね、昭和43年には現在地へ移転すると共に、部屋数も100室を超える大型旅館へと変貌を遂げます。昭和63年に瀬戸大橋が開通したことで、道後への利便性が一気に高まりました。そこで新しい宿を目指すため、2年間の休業を経て平成8年に、数寄屋造りや聚楽壁、能楽堂など日本の伝統建築にこだわった宿へと生まれ変わりました。
平成元年には姉妹館として大和屋別荘も新築しました。
現在、総客室数は90室(洋室のシングル29室、ツイン2室と和室の59室)で鉄筋10階建ての構造となります。
夕食は和食・会席料理をお出ししており、朝食はSNSでも話題のビュッフェスタイルです。
大浴場、露天風呂、足湯、宴会場が4室(16~58畳)、カラオケ、クラブ、バー、喫茶、エステサロン、200名が入れるコンベンションホールもございます。
大和屋本店 取締役常務 奥村 晃弘 様
大和屋本店 施設管理課 主任 村松 一哉 様
大和屋本店のこだわりを教えてください
大和屋本店の最大の特徴としては、道後温泉本館から徒歩1分の場所にあるということです。
道後温泉本館からの引き湯にて、温泉を楽しむことができます。
また大和屋本店のこだわりとしては、「伝統」と「革新」の共存にあると思います。
「伝統」については、能舞台「千寿殿」です。
平成8年の改築のタイミングで、屋外に独立して建立した日本建築様式の優美な外観と総檜造りの能舞台を館内につくりました。能という一つの文化を伝承するため、建築を行い、松山喜多流能の発表会や能以外に狂言などの伝統芸能上演、結婚式や講演会といった様々な催しに利用されています。(まさに檜舞台という言葉の由来です。)
普段は、足袋を履いて神聖な能舞台の上で自由に写真撮影もできます。

先ほども少しご紹介したように、コロナ禍の前後でお客様が大きく変わりました。
コロナ前は、団体旅行のお客様が多く、社員旅行や高齢の方を中心とした募集旅行や各種組合の旅行でご利用いただくことが多かったです。その為、送客もOTA(楽天トラベル、じゃらんなど)よりもJTBや日本旅行などのエージェント経由での部屋提供が殆どでした。
それがコロナによって大きく変動し、予約方法もOTAがメインとなり、個人客に完全にシフトしました。
年代の幅としても広くご利用いただいています。
その中でも40~50代のお客様が比率としては高い印象です。
休みの期間になると、ファミリー利用やご夫婦、若いカップルの方の利用も増えてきます。
若いカップルの方がご宿泊いただくと、SNSを自発的にアップいただけるので大変有難いです。
シングルルームもあるので、平日のビジネスユースも平均稼働として80%ほどの高稼働で利用いただいております。
昔と異なり、大広間に大勢というよりは、客室タイプとして2名1室がメインになってきました。
インバウンドのお客様は台湾の方や松山との直行便が1日2便になったことで韓国の方も増えてきました。
以前5%ほどだったインバウンド比率もコロナ明け10~15%ほどに高まっています。
シーズンの違いとしては、春は学生が多く、夏は家族連れ、秋は40~60代の行楽利用、冬は春節に重なって中国のお客様が増える印象です。

どういったお客様がご宿泊されますか?

運営で苦労されている点は?
11年前に私が入社した当初は、昔ながらの体制で非効率な運営をしていました。
新たな施策を打つ時も、「自己満足」が中心でお金はかけるけど、それがお客様にとって価値があるのかは怪しい状態でした。
これまで自分達の中で価値があるとバイアスがかかっていたサービスが本当にお客様に価値を出しているのかをテストして検証するようになりました。
例えば、「呈茶サービス」です。
これまではスタッフ全員がお客様に対して呈茶のサービスを行っていましたが、果たしてお客様にとって価値が出ているのかテストしたところ、案外呈茶はなくても問題がないことが分かりました。
これによって、スタッフの業務負担が大きく下がりました。
同様に、「アメニティバー」です。
以前は客室にアメニティをセットするのが常識でしたが、これもお客様に選んでもらう方がお互いに良いのではと始めてみたところ、クレームもなくスムーズに移行できました。
こうした長年宿泊業をしていることにより発生する「無意識のバイアス」が組織全体に浸透してしまっていたのを変革していくのが、非常に大変でした。
そんな中、「コロナ禍」というきっかけで大きく変革せざるを得ない状況になりました。
これにより、これまでのバイアスから変革へのベクトルに切り替えることができました。
それでも旅館業は大変な部分は多く、特に人手不足の問題は常に抱えています。
配膳ロボット、動画の業務マニュアルの作成、自動チェックイン機の検討など省人化の施策は様々打っていますが、料飲や調理、設備管理に関しては平均稼働率が85%を超えてくると、人的リソースがパツパツになってきます。

大和屋本店
取締役常務 奥村 晃弘 様
昭和53年、道後生まれ。
平成25年、大和屋本店に入社。
フロントや総務・経理を経て平成31年3月に取締役常務就任。みかんジュースの出る蛇口の企画や動画業務マニュアル作成などオペレーション変革に従事。

今回インタビューさせて頂いた方

HoteKanを採用いただいた背景は?
道後温泉旅館協同組合からFAXで1通の招待状が届きました。それは、愛媛県のデジタル実装加速化プロジェクトである「トライアングルエヒメ」での事業の一つであるHoteKanの知見共有会のお誘いでした。
TRY ANGLE EHIME: https://dx-ehime.jp/
宝荘グループ(道後御湯、道後hakuro、ホテル椿館)で実証試験をしているとのことだったので、HoteKanのサービス自体も含めて、奥村常務と管理部の増田部長と私(施設管理課 主任 村松様)の3名で聞きにいこうとなりました。
その知見共有会を見た後の感想としては、奥村常務からは「LINEで特に問題ないのではないか」という意見でした。
確かに、これまでLINEで十分に連絡、報告、修繕はできており、故障の連絡があれば一つ当たり10分程度でその日の内に修繕できていました。外部業者に頼む比率も少なく、殆どが自社内でその日の内に全て直すというのが日常です。
ただ、私の感想は、「これならば施設の電子カルテがつくれる!」と思いました。
やり取り自体はLINEだけで特に不便はなかったのですが、もともと施設内の設備や備品(畳、扉、襖など)が客室ごとに異なっていることもあり、客室ごとの設備構成を電子カルテとして構築しようと思っていました。
しかし、いざExcelで作ろうとすると、写真を貼り付けて構成設備の内容を確認して入力するのも非常に大変で途中で頓挫していました。また実際にExcelで作ると見にくく、整理性や検索性も悪く、使いにくいものでした。
とはいえ、自社でアプリをつくろうとすれば、大変なコストがかかる上に、iOSやAndroidなど端末側のOS側がアップデートされるたびに更新作業費用もかかり、更にUIの観点で使いやすいアプリをつくれるかと言ったら怪しいため、悩んでいました。
そんな時にこの知見共有会でHoteKanを知り、「今乗っかった方が絶対に良い」と考えました。
またインシデント(故障)のやり取りや履歴管理だけでなく、法定点検書類などもHoteKan内に電子保管することができるとのことで、書類の殆どが手書きの紙での保管の現状を変えられるのではないかとも思いました。
そこで、増田部長にHoteKanを使ってみたいとお願いをしたところ、「あなたが使いたいというのならばやってみたら」ということで使えることになりました。

HoteKanによる効果はありますか?
HoteKanの利点は3つ感じています。
1つ目が、「インシデント(故障)の検索性が高い」ことです。
フリーワードだけでなく、設備の種類や客室別など過去に起こったインシデントを色々な形で検索できるため、色々なことに気づく事ができます。例えば、1ヶ月に2回や3回と同じ内容のインシデントが起きていると分かると、全て応急処置の対応だったと分かり、根本的な原因は別にあると分かります。
これまでは、その時にたまたま当たった担当者が都度対応するため、同じ人であれば分かりますが、異なる人が対応すると同じ内容が何回も起きてもなかなか気づくことができませんでした。また紙の書類で調べようとしても、日報を一から探す形になり、1年前の同じインシデントを探すのにも相当時間がかかっていました。
またインシデントの件数が多い事象から予防的な修繕計画を立てることができます。
1ヶ月以内に畳(or ユニットバスなど)のインシデントが〇〇件起きているから、同じ時期に設置した畳に関しては同様のことが起き得るので、全体で計画的に修繕を行おうなど考えることができます。
事前に故障しやすいところが分かっていれば、計画的に修繕を行えるので、それによってお客様からのクレームも大幅に無くすことができます。お客様のクレームの発生原因の殆どが接客ではなく、設備の不具合です。
2つ目が、「担当の客室係にのみ通知できる」点です。
これまで、清掃さんから上がってきたインシデントを各フロアの担当客室係(清掃の完了とチェックを確認し、お客様を案内する人)が確認し、LINEで全体に共有していました。我々、施設管理課はそれを受けて、内容の確認を行い、修繕が完了すれば同じくLINEで共有していました。
すると、担当の客室係ではない人達にも全員に通知が届くため、その度に全員が一旦作業を止めてLINEを見て確認していました。何度もやり取りをしていると、その度に全員の動きが一旦止まってしまう事象が起きていました。一瞬とはいえ、1日の中で何回もそして何人も作業が中断してしまうのは生産性の観点では大きな損失です。
これがHoteKanでは、通知したい相手をメンションしてやり取り(@相手の名前)することができるので、関係の無い客室係の業務を止めることがありません。生産性や効率性の観点で改善していると思います。
3つ目が一番重要だと思っているのですが、「役員など上の管理者が設備や施設に興味を持ってくれる」ようになったことです。
これまでは、施設の故障や修繕に関しては、施設管理課が全て対応し紙の書類でまとめて整理しておくくらいでした。そのため、管理部と施設管理課以外の人達には殆ど内容を共有することがないため、役員含めて上の管理者の方も設備や施設の状況などをそこまで把握ができていない状況でした。
HoteKanを入れてからは、経営層の方々もログインしてもらい、過去のインシデントの履歴などを常に閲覧できるようになりました。それによって、設備管理に対する興味も以前よりも持ってくれるようになりました。
大きな金額の決裁が必要な修繕に関しては、管理者の方が設備の重要性を理解をしていないと、日々の中で後回しになりがちです。そうして放置しておくと、大浴場にお風呂が張れなくなるなどの営業に関わるような大問題事例も発生してしまいます。
施設管理が口頭でたびたび管理者に話をしても中々伝わらないのが、インシデント履歴が写真や動画付きでズラッと並んでいると、「これはそろそろ何とかしないといけない」と効果的に伝えることができます。
ホテルや旅館の経営者がどこまで施設・設備に対して関心があるのかが、宿泊業経営そのものに関わることだと感じています。
HoteKanの知見共有会においても、色々な宿泊施設の代表や役員の方の話を聞いていると、皆さんが自社施設に対して非常に愛着を持って、今後どのように修繕や設備投資計画を行えばより施設が良くなるかを考えている方が多く、勉強になりました。
またそうした意識を持った会社でHoteKanが多く採用されている印象を受けました。


実際にHoteKanをどのように使われていますか?
客室清掃スタッフから各フロアの担当客室係に口頭で伝達、その後、HoteKanでインシデントデータを入力しています。施設管理課がHoteKanで内容を確認した後、直ぐに修繕に向かいます。
殆どが自社で修繕完了できますが、まれに自社で対応できないものに関しては外部業者に連絡します。定期的に、インシデント履歴を役員や管理者が確認します。
【HoteKan設備】
10:30~
お客様がチェックアウトされた後、清掃スタッフが客室に入り、客室内の設備異常を発見し、各フロアの客室係に連絡。担当の客室係が写真や動画を撮影、HoteKanに入力する。

11:00~
施設管理課が現場に駆けつけて、直ぐに修繕できるものはその場で行う。外部業者さんに依頼が必要な場合は、HoteKanのインシデントのチャットで管理者に共有し、依頼をする。修繕完了後、HoteKanに解決内容を入力し、「未解決」から「解決済」にインシデントを変更する。

「革新」については、「みかんジュースの出る蛇口」や「大和屋台」「足湯カフェ」「朝食ビュッフェ」があります。
きっかけは、コロナ禍でした。
コロナ禍により団体旅行を含めた既存顧客の激減が起こりました。
それまではJTBや日本旅行といったリアルエージェントによる送客がメインで社員旅行や募集の企画旅行で来られる方が殆どでした。そのため、コンベンションホールや宴会場、夕食も色々な料理が選べるようにと「洋食」「中華」「和食」と様々準備しておりました。
それがコロナによって消失し、今後どのようにすべきか考えないといけない状況になりました。
そこで、個人客にターゲットを絞り、提供するサービスが全てマーケティングとして繋がるものを意識して改革を進めていきました。
1つ目が「大和屋台」です。
キリリと冷えた地酒と駄菓子が自由にいただけます。湯上りの待ち合わせ場所としても最適で、こちらも「地酒BAR」「駄菓子BAR」として写真や動画を宿泊者が撮ってSNSに流してくれることで、自動的にマーケティングに繋がる効果を生んでいます。
2つ目が「朝食ビュッフェ」です。
これまで一人ずつの朝定食で提供していたものを新たにビュッフェスタイルに変更いたしました。
自分でつくる海鮮丼やインスタ映えするいくらの山、更に「千と千尋の神隠し」の雰囲気を模した会場設備を準備しました。
これにより、InstagramやTikTokなどで多く拡散されるようになり、マーケティング効果も大きくでています。
夕食に関しては、「和食」のみに絞り込みを行い、品質に特化しました。

3つ目が「みかんジュースの出る蛇口」です。
愛媛では蛇口を捻るとみかんジュースが出てくるという都市伝説をリアルに再現してみようと、道後温泉本館をモチーフにした「蛇口みかんジュース」をつくってしまいました。
旅のお土産話になると共に、愛媛県に来たら「蛇口みかんジュース」とSNSで発信してくれる方が続出しています。
家族連れやカップルに評判の良い駄菓子BAR
お客様とって真に価値のあるサービスを提供
施設管理の現場を経営者に生々しく伝えることができます
大和屋本店 取締役常務 奥村 晃弘 様
大和屋本店 施設管理課 主任 村松 一哉 様
大和屋本店について教えてください
大和屋本店は慶応4年(明治元年)創業で、150年以上続く道後温泉本館北側に構える老舗旅館になります。
創業時は、和紙の原料である楮ミツマタの仲買を営んでおりました。江戸時代は、道後温泉周辺で商いをすることが許されていませんでしたが、明治になると解禁されるようになりました。楮ミツマタの販路を全国に拡大するため、取引先の宿泊場所を提供するべく、いち早く道後温泉本館北側に4部屋の木造旅館を構えました。
名前の由来は、創業者である奥村保二郎氏が大和の国(現在の奈良県)に縁があったからとも言われています。
その後、宿泊業が主となり、昭和元年には木造旅館の東側に、道後では初めてとなる鉄筋4階建ての洋館を建設。洋館を「大和屋本店」、木造旅館を「大和屋支店」としました。昭和19年に、海軍療養所として一時接収されたものの、昭和21年には営業を再開しました。日本最古の湯として知られる道後は、文化の里。俳句発祥の地として、あるいは近代文学の舞台として、かつて華開いた才気の気配を至るところで感じることができます。
昭和30年代に入り、団体旅行が中心になると、これに対応すべく増築を重ね、昭和43年には現在地へ移転すると共に、部屋数も100室を超える大型旅館へと変貌を遂げます。昭和63年に瀬戸大橋が開通したことで、道後への利便性が一気に高まりました。そこで新しい宿を目指すため、2年間の休業を経て平成8年に、数寄屋造りや聚楽壁、能楽堂など日本の伝統建築にこだわった宿へと生まれ変わりました。
平成元年には姉妹館として大和屋別荘も新築しました。
現在、総客室数は90室(洋室のシングル29室、ツイン2室と和室の59室)で鉄筋10階建ての構造となります。
夕食は和食・会席料理をお出ししており、朝食はSNSでも話題のビュッフェスタイルです。
大浴場、露天風呂、足湯、宴会場が4室(16~58畳)、カラオケ、クラブ、バー、喫茶、エステサロン、200名が入れるコンベンションホールもございます。

大和屋本店のこだわりを教えてください
大和屋本店の最大の特徴としては、道後温泉本館から徒歩1分の場所にあるということです。
道後温泉本館からの引き湯にて、温泉を楽しむことができます。
また大和屋本店のこだわりとしては、「伝統」と「革新」の共存にあると思います。
「伝統」については、能舞台「千寿殿」です。
平成8年の改築のタイミングで、屋外に独立して建立した日本建築様式の優美な外観と総檜造りの能舞台を館内につくりました。能という一つの文化を伝承するため、建築を行い、松山喜多流能の発表会や能以外に狂言などの伝統芸能上演、結婚式や講演会といった様々な催しに利用されています。(まさに檜舞台という言葉の由来です。)
普段は、足袋を履いて神聖な能舞台の上で自由に写真撮影もできます。

「革新」については、「みかんジュースの出る蛇口」や「大和屋台」「足湯カフェ」「朝食ビュッフェ」があります。
きっかけは、コロナ禍でした。
コロナ禍により団体旅行を含めた既存顧客の激減が起こりました。
それまではJTBや日本旅行といったリアルエージェントによる送客がメインで社員旅行や募集の企画旅行で来られる方が殆どでした。そのため、コンベンションホールや宴会場、夕食も色々な料理が選べるようにと「洋食」「中華」「和食」と様々準備しておりました。
それがコロナによって消失し、今後どのようにすべきか考えないといけない状況になりました。
そこで、個人客にターゲットを絞り、提供するサービスが全てマーケティングとして繋がるものを意識して改革を進めていきました。
1つ目が「大和屋台」です。
キリリと冷えた地酒と駄菓子が自由にいただけます。湯上りの待ち合わせ場所としても最適で、こちらも「地酒BAR」「駄菓子BAR」として写真や動画を宿泊者が撮ってSNSに流してくれることで、自動的にマーケティングに繋がる効果を生んでいます。
2つ目が「朝食ビュッフェ」です。
これまで一人ずつの朝定食で提供していたものを新たにビュッフェスタイルに変更いたしました。
自分でつくる海鮮丼やインスタ映えするいくらの山、愛媛だけでなく、瀬戸内海に隣接する各地の美味しいものを集めました。
これにより、InstagramやTikTokなどで多く拡散されるようになり、マーケティング効果も大きくでています。
夕食に関しては、「和食」のみに絞り込みを行い、品質に特化しました。

3つ目が「みかんジュースの出る蛇口」です。
愛媛では蛇口を捻るとみかんジュースが出てくるという都市伝説をリアル に再現してみようと、道後温泉本館をモチーフにした「蛇口みかんジュース」をつくってしまいました。
旅のお土産話になるとともに、愛媛県に来たら「蛇口みかんジュース」とSNSで発信してくれる方が続出しています。

どういったお客様がご宿泊されますか?
先ほども少しご紹介したように、コロナ禍の前後でお客様が大きく変わりました。
コロナ前は、団体旅行のお客様が多く、社員旅行や高齢の方を中心とした募集旅行や各種組合の旅行でご利用いただくことが多かったです。その為、送客もOTA(楽天トラベル、じゃらんなど)よりもJTBや日本旅行などのエージェント経由での部屋提供が殆どでした。
それがコロナによって大きく変動し、予約方法もOTAがメインとなり、個人客に完全にシフトしました。
年代の幅としても広くご利用いただいています。
その中でも40~50代のお客様が比率としては高い印象です。
休みの期間になると、ファミリー利用やご夫婦、若いカップルの方の利用も増えてきます。
若いカップルの方がご宿泊いただくと、SNSを自発的にアップいただけるので大変有難いです。
シングルルームもあるので、平日のビジネスユースも平均稼働として80%ほどの高稼働で利用いただいております。
昔と異なり、大広間に大勢というよりは、客室タイプとして2名1室がメインになってきました。
インバウンドのお客様は台湾の方や松山との直行便が1日2便になったことで韓国の方も増えてきました。
以前5%ほどだったインバウンド比率もコロナ明け10~15%ほどに高まっています。
シーズンの違いとしては、春は学生が多く、夏は家族連れ、秋は40~60代の行楽利用、冬は春節に重なって中国のお客様が増える印象です。

運営で苦労されている点は?
11年前に私が入社した当初は、昔ながらの体制で非効率な運営をしていました。
新たな施策を打つ時も、「自己満足」が中心でお金はかけるけど、それがお客様にとって価値があるのかは怪しい状態でした。
これまで自分達の中で価値があるとバイアスがかかっていたサービスが本当にお客様に価値を出しているのかをテストして検証するようになりました。
例えば、「呈茶サービス」です。
これまではスタッフ全員がお客様に対して呈茶のサービスを行っていましたが、果たしてお客様にとって価値が出ているのかテストしたところ、案外呈茶はなくても問題がないことが分かりました。
これによって、スタッフの業務負担が大きく下がりました。
同様に、「アメニティバー」です。
以前は客室にアメニティをセットするのが常識でしたが、これもお客様に選んでもらう方がお互いに良いのではと始めてみたところ、クレームもなくスムーズに移行できました。
こうした長年宿泊業をしていることにより発生する「無意識のバイアス」が組織全体に浸透してしまっていたのを変革していくのが、非常に大変でした。
そんな中、「コロナ禍」というきっかけで大きく変革せざるを得ない状況になりました。
これにより、これまでのバイアスから変革へのベクトルに切り替えることができました。
それでも旅館業は大変な部分は多く、特に人手不足の問題は常に抱えています。
配膳ロボット、動画の業務マニュアルの作成、自動チェックイン機の検討など省人化の施策は様々打っていますが、料飲や調理、設備管理に関しては平均稼働率が85%を超えてくると、人的リソースがパツパツになってきます。

HoteKanを採用いただいた背景は?
道後温泉旅館協同組合からFAXで1通の招待状が届きました。それは、愛媛県のデジタル実装加速化プロジェクトである「トライアングルエヒメ」での事業の一つであるHoteKanの知見共有会のお誘いでした。
TRY ANGLE EHIME: https://dx-ehime.jp/
宝荘グループ(道後御湯、道後hakuro、ホテル椿館)で実証試験をしているとのことだったので、HoteKanのサービス自体も含めて、奥村常務と管理部の増田部長と私(施設管理課 主任 村松様)の3名で聞きにいこうとなりました。
その知見共有会を見た後の感想としては、奥村常務からは「LINEで特に問題ないのではないか」という意見でした。
確かに、これまでLINEで十分に連絡、報告、修繕はできており、故障の連絡があれば一つ当たり10分程度でその日の内に修繕できていました。外部業者に頼む比率も少なく、殆どが自社内でその日の内に全て直すというのが日常です。
ただ、私の感想は、「これならば施設の電子カルテがつくれる!」と思いました。
やり取り自体はLINEだけで特に不便はなかったのですが、もともと施設内の設備や備品(畳、扉、襖など)が客室ごとに異なっていることもあり、客室ごとの設備構成を電子カルテとして構築しようと思っていました。
しかし、いざExcelで作ろうとすると、写真を貼り付けて構成設備の内容を確認して入力するのも非常に大変で途中で頓挫していました。また実際にExcelで作ると見にくく、整理性や検索性も悪く、使いにくいものでした。
とはいえ、自社でアプリをつくろうとすれば、大変なコストがかかる上に、iOSやAndroidなど端末側のOS側がアップデートされるたびに更新作業費用もかかり、更にUIの観点で使いやすいアプリをつくれるかと言ったら怪しいため、悩んでいました。
そんな時にこの知見共有会でHoteKanを知り、「今乗っかった方が絶対に良い」と考えました。
またインシデント(故障)のやり取りや履歴管理だけでなく、法定点検書類などもHoteKan内に電子保管することができるとのことで、書類の殆どが手書きの紙での保管の現状を変えられるのではないかとも思いました。
そこで、増田部長にHoteKanを使ってみたいとお願いをしたところ、「あなたが使いたいというのならばやってみたら」ということで使えることになりました。

大和屋本店 管理部 施設管理課 村松 一哉 主任
HoteKanによる効果はありますか?
HoteKanの利点は3つ感じています。
1つ目が、「インシデント(故障)の検索性が高い」ことです。
フリーワードだけでなく、設備の種類や客室別など過去に起こったインシデントを色々な形で検索できるため、色々なことに気づく事ができます。例えば、1ヶ月に2回や3回と同じ内容のインシデントが起きていると分かると、全て応急処置の対応だったと分かり、根本的な原因は別にあると分かります。
これまでは、その時にたまたま当たった担当者が都度対応するため、同じ人であれば分かりますが、異なる人が対応すると同じ内容が何回も起きてもなかなか気づくことができませんでした。また紙の書類で調べようとしても、日報を一から探す形になり、1年前の同じインシデントを探すのにも相当時間がかかっていました。
またインシデントの件数が多い事象から予防的な修繕計画を立てることができます。
1ヶ月以内に畳(or ユニットバスなど)のインシデントが〇〇件起きているから、同じ時期に設置した畳に関しては同様のことが起き得るので、全体で計画的に修繕を行おうなど考えることができます。
事前に故障しやすいところが分かっていれば、計画的に修繕を行えるので、それによってお客様からのクレームも大幅に無くすことができます。お客様のクレームの発生原因の殆どが接客ではなく、設備の不具合です。
2つ目が、「担当の客室係にのみ通知できる」点です。
これまで、清掃さんから上がってきたインシデントを各フロアの担当客室係(清掃の完了とチェックを確認し、お客様を案内する人)が確認し、LINEで全体に共有していました。我々、施設管理課はそれを受けて、内容の確認を行い、修繕が完了すれば同じくLINEで共有していました。
すると、担当の客室係ではない人達にも全員に通知が届くため、その度に全員が一旦作業を止めてLINEを見て確認していました。何度もやり取りをしていると、その度に全員の動きが一旦止まってしまう事象が起きていました。一瞬とはいえ、1日の中で何回もそして何人も作業が中断してしまうのは生産性の観点では大きな損失です。
これがHoteKanでは、通知したい相手をメンションしてやり取り(@相手の名前)することができるので、関係の無い客室係の業務を止めることがありません。生産性や効率性の観点で改善していると思います。
3つ目が一番重要だと思っているのですが、「役員など上の管理者が設備や施設に興味を持ってくれる」ようになったことです。
これまでは、施設の故障や修繕に関しては、施設管理課が全て対応し紙の書類でまとめて整理しておくくらいでした。そのため、管理部と施設管理課以外の人達には殆ど内容を共有することがないため、役員含めて上の管理者の方も設備や施設の状況などをそこまで把握ができていない状況でした。
HoteKanを入れてからは、経営層の方々もログインしてもらい、過去のインシデントの履歴などを常に閲覧できるようになりました。それによって、設備管理に対する興味も以前よりも持ってくれるようになりました。
大きな金額の決裁が必要な修繕に関しては、管理者の方が設備の重要性を理解をしていないと、日々の中で後回しになりがちです。そうして放置しておくと、大浴場にお風呂が張れなくなるなどの営業に関わるような大問題事例も発生してしまいます。
施設管理が口頭でたびたび管理者に話をしても中々伝わらないのが、インシデント履歴が写真や動画付きでズラッと並んでいると、「これはそろそろ何とかしないといけない」と効果的に伝えることができます。
ホテルや旅館の経営者がどこまで施設・設備に対して関心があるのかが、宿泊業経営そのものに関わることだと感じています。
HoteKanの知見共有会においても、色々な宿泊施設の代表や役員の方の話を聞いていると、皆さんが自社施設に対して非常に愛着を持って、今後どのように修繕や設備投資計画を行えばより施設が良くなるかを考えている方が多く、勉強になりました。
またそうした意識を持った会社でHoteKanが多く採用されている印象を受けました。

「上の人達がHoteKanで施設のことを見てくれるのは大きい」と村松 一哉 主任

実際にHoteKanをどのように使われていますか?
客室清掃スタッフから各フロアの担当客室係に口頭で伝達、その後、HoteKanでインシデントデータを入力しています。
施設管理課がHoteKanで内容を確認した後、直ぐに修繕に向かいます。
殆どが自社で修繕完了できますが、まれに自社で対応できないものに関しては外部業者に連絡します。
定 期的に、インシデント履歴を役員や管理者が確認します。
【HoteKan設備】
10:30~
お客様がチェックアウトされた後、清掃スタッフが客室に入り、客室内の設備異常を発見し、各フロアの客室係に連絡。担当の客室係が写真や動画を撮影、HoteKanに入力する。

11:00~
施設管理課が現場に駆けつけて、直ぐに修繕できるものはその場で行う。
外部業者さんに依頼が必要な場合は、HoteKanのインシデントのチャットで管理者に共有し、依頼をする。
修繕完了後、HoteKanに解決内容を入力し、「未解決」から「解決済」にインシデントを変更する。

例)濾過機での異常をHoteKanに入力
今回インタビューさせて頂いた方

大和屋本店
取締役常務 奥村 晃弘 様
昭和53年、道後生まれ。平成25年、大和屋本店に入社。
フロントや総務・経理を経て平 成31年3月に取締役常務就任。みかんジュースの出る蛇口の企画や動画業務マニュアル作成などオペレーション変革に従事。